それが僕らの現実……かな

スラムオンライン (ハヤカワ文庫 JA (800))

スラムオンライン (ハヤカワ文庫 JA (800))

ハヤカワ文庫から出ているが、SFではない。「次世代型作家のリアル・フィクション」なんだそうだ。何をどう定義しようと、それは自由なのでコピィに特に感想は無い。
リアルという現実での坂上悦郎と薙原布美子、バーチャルというネットゲーム内でのテツオとその周りのキャラクタ。
リアルでは、新宿、大学、猫探し、デート、ゲーセン、と、現実で実物が現れる。
バーチャルでは、1丁目〜3丁目、バー、武闘会、と、ネットゲーム内でポリゴンテクスチャで構成された架空のものが現れる。
どちらの世界も、全てものに何の不自然さも無い。世界の法則に従い、世界に属しているものである。そういう意味では、どちらもリアルであると言える。
リアルはバーチャルに影響し、バーチャルはリアルに影響する。2つの世界は不可分なものとなっている。
リアルでの他人との恋愛、バーチャルでの自分の確認。その2つの、別々の世界の出来事が、見たものが、触れたものが、微妙にお互いの世界にリンクしながら同時に進む。
人の心の描写が凄く丁寧だ。それは、『よくわかる現代魔法』シリーズから感じていた事だ。
決して不自然で無い、全く自然な形でストーリィが進む。勢いがあるようで、時々詰まる。まるで、現実のように。
読んでいる我々にとって、小説内の出来事はバーチャルだ。小説内の"現実"も"バーチャル"も、我々にとっては、バーチャルでしかない。しかし、それらを切り離す必要は無い。お互いを影響して影響しあって、そうやって生きていけば良い。
それら全部ひっくるめて、僕が僕であれば良い。つまり、そういう話。
ところで、桜坂洋氏の『よくわかる現代魔法』シリーズの短編集はボツになったのでしょうか。