サーガがたった2編

本屋でワニ皮の表紙のノベルスを見つけた。それが舞城王太郎の小説との出会い。
その場でそのワニ皮表紙の、発行年月日の古い方、『煙か土か食い物 (講談社ノベルス)』を購入し、読み始めた。
投げようと思った。半分も読まない内に。多分80ページくらい読んだ頃に。それでも最後まで読んだ。
主人公・探偵役は奈津川家四男、奈津川四郎。アメリカで医者をやっており、母親が事件に巻き込まれたため、福井に帰国。ズバッと解決。
そう。この「ズバッと」が問題だった。
圧倒的文圧、と書けば聞こえが良いが、つまりは勢いに任せたような一人称の走り書き。叙述トリックなど無く、全て多分真実。迷いも間違いも無く、密室も暗号もズバッと解決。
大した情報も与えられず、渦巻きが出た時点で、「え」。そのまま四郎が解決。やっぱり、「え」。
四郎の連想と直感。要するに、主人公の心に流されるままで、物語に読者が関与する余地が小さい。バン!と与えられたミステリィと解答を同時にドカン!と見せて、はい!お仕舞い!!
そういう小説を今まで読んだ事が無かった。そこで、考え方を変えた。
これはエンタテイメントだ、と。リズムと勢いに乗って楽しむものだ、と。
そうすると中々面白かった。事件を中心に展開されるミステリィと同時に進む家族の話。
続けて読んだ『暗闇の中で子供 (講談社ノベルス)』も同様に読んで楽しんだ。
主人公は前作でヘタレっぽかった奈津川家三男・奈津川三郎。ヘタレかと思っていたのは、前作で四郎のキャラクタがが強すぎたせいだと分かる。実際はやはり奈津川家。強かった。
事件は前作の模倣犯が出てくるので、前作の完全な続き。テーマはやはり家族。
内容は相変わらず、ズバッと。与えられる情報の違いから、前作よりは読者に優しいか。それとも単に慣れていただけなのか。
以降、舞城王太郎は短編・中編などで福井を舞台にして、奈津川家周辺を登場させる事はあっても、奈津川家サーガを書いていない。主人公になっていない奈津川家メンバは、父・丸雄、長男・一郎、次男・二郎、母・陽子だが、確かに、書きにくそうだ。
他の舞城王太郎の作品を見て、奈津川家サーガほど家族をテーマとして書いているとは思えないので、これで終わりなのだろうか。『暗闇の中で子供 (講談社ノベルス)』の最後に出てきた人物。それこそが終わりのサインだったのか。

煙か土か食い物 (講談社ノベルス)

煙か土か食い物 (講談社ノベルス)

暗闇の中で子供 (講談社ノベルス)

暗闇の中で子供 (講談社ノベルス)