実弾は保留

未来の立場から過去が語られる物語に於いてその結末に変更は無く、しかもそれが悲劇であっても避けられようの無い決定事項である。
結末を分かっている(知らされた)読者がその物語を読む理由は、即ち、何故その結末が起こったか、何故その悲劇が引き起こされたか、という理由・動機を物語を読むことで明文化してもらえることを期待するためである。
人は物事の原因を聞いて安心する。逆に言えば、原因の分からない結末に対しては不安になる。
例えば、宮崎勤の事件は、例え犯人が明言しなくとも、マスコミは事故の性的欲求を事件の動機にしようしていたし、"理由無き殺人"でさえ、気の迷い・精神不安定を動機にしようとする。
全ては安心を得るために。
さて、桜庭一樹砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない (富士見ミステリー文庫)』の感想。
現実主義の少女と頭の弱そうな少女。
この2人の物語で終われば、それはそれは平和だったろう。
だけど、誰もそうはさせてくれない。冒頭で悲劇の結末が明示され、その過程が語られる。
物語の最後は、悲劇の後のどうしようもなさ。
ところで、桜庭一樹の作品に出てくる青年は格好良い。『君の歌は僕の歌―Girl’s guard (ファミ通文庫)』の兄も一郎も格好良かった。
だけど、どこか子供っぽさがある。言うなれば精々、女の子が想像する理想の兄、くらい。
それを意識していたのかか、今回は、その格好良い青年が理想の殻を壊す描写があった。
理想の兄であった青年がその美しさを自ら壊し、現実に回帰する姿は、惨めでもあり、より美しくも見えた。
そういう要素、醜さと悲しさと美しさが、集まって、固まって、この物語が出来ている。

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない (富士見ミステリー文庫)

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない (富士見ミステリー文庫)

もう、ライトノベルって分野は無くすべきだね。こんな作品があるんだから。