表があれば裏もある

七つの黒い夢 (新潮文庫)』読了。新潮文庫「七つの」シリーズ第3弾。ミステリィ、ホラーときて、サスペンスとは言わずダーク・ファンタジィ。
乙一『この子の絵は未完成』。本のタイトルに合わず、いきなり白乙一。子供の純粋な気持ちが生み出す奇跡を母親の視点から丁寧に書いている。雰囲気は『傷-KIZ⁄KIDS-』に似ている。相変わらずの才能が伺えるので嬉しい。巻末に、文庫収録にあたり改稿、とある。
恩田陸『赤い鞠』。夢現がもたらす不安と空虚。普通ならば、現実のもので打ち消されるそんな感情が、現実のものでより強まる。そんな不思議。景色が浮かびやすい。まるで無声映画を見ている様だった。
北村薫『百物語』。ガクガクブルブル。ようやく、本のタイトルに相応しい黒が出た。男子諸君、気を付けたまえ。唐突に始まり、唐突に終わる。5分のショートフィルムの様な作品。
誉田哲也『天使のレシート』。この本に収録されている作家で、唯一知らない作家。アンソロジィはこういう出会いがあるから良い。初めはゆっくりと穏やかな情景で物語は進むが、突然空気が変わり、ピシャッと締められる。少し突飛過ぎて、おや、と思ってしまった。初めに話のプロットがあって、それに合わせて文を配置した感じ。『世にも奇妙な物語』にありそう。
西澤保彦『桟敷がたり』。犯罪の動機なんて、大した事ではない。まるで、大した事の様に書こうとする物語があるのは、犯罪に動機があるに違いない、動機があることで安心する、そういうワイドショー好きな人がマジョリティだからだろう。
桜坂洋『10月はSPAMで満ちている』。『よくわかる現代魔法』シリーズの坂崎嘉穂登場。眼鏡っ娘になってる。中身のスペックも話し方も相変わらず。近所のおかしな事件をぽろっと解決。ノリが軽いし、どちらかと言えばミステリィ。黒くは無い。
岩井志麻子『哭く姉と嘲う弟』。この本の最後に相応しい物語。物語の中で語られる物語も不思議で暗い。オチも中々。
これらの物語は、この本のために書き下ろされたものではなく、元々雑誌『小説新潮』などに掲載された短編をまとめたものなので、一貫性は無いし、収録順も物語には関係が無い。
アンソロジィを買うのは、良く知っている作家と他の作家の物語を比較し易かったり、この作家は短編に向いていないな、と判別するためだったり、色々と理由がある。直ぐに比較が出来るので、人の思考(プロット構築)回路とはこんなにも構造が違うのだな、と読んでいてひしひしと感じる。

七つの黒い夢 (新潮文庫)

七つの黒い夢 (新潮文庫)